岩 橋 山 と 久 米 の 岩 橋

     
      河内側の平石から見た岩橋山(中央)-左手には高貴寺・磐船神社のある哮ヶ峯がそびえ



 
岩橋山と久米の岩橋

岩橋山は、大阪府と奈良県を分ける二上山〜葛城山の間にそびえる標高658mの山で、河南町平石の磐船神社・高貴寺の東方の山嶺にあたります。 
南側の岩橋峠から山頂に上がる急斜面の途中、縦走路の階段道から西側の尾根筋の突端へ行った所に、役行者が金御嶽へ通うために、一言主神に架けさせたとの伝承のある「久米の岩橋」と呼ばれる謎の石造物があります。
『河内名所図絵』には、岩橋山の西側山腹には鍋釜岩・鉾立岩・胎内くぐり岩などの奇岩と共に「穴」と書かれて塚穴=横穴式石室らしい遺跡がふもとに3ヶ所描かれていて、岩橋はその上部、岩橋山の西南斜面に描かれています。
別の岩橋の絵図には、胎内くぐりの巨岩と岩橋の上に乗って興味深げに見学する人々も描かれ、いかにも巨大な石造物を連想させますが、現地に残る岩橋は、予想外に小さなものでした。背後には「石不動」と記して不動石仏らしいものが描かれ、絵図どおり、現地には不動明王を刻んだ石仏が残っています。この岩橋と呼ばれる不思議な石造物は、写真のとおりですが、周辺に存在した終末期の古墳の小型石郭を利用して、石橋形に加工された可能性も考えられそうです。 (2006.11.9)

 所在地 大阪府南河内郡河南町平石

       

           岩橋の東にある平坦部は寺跡か?         石 不 動
 


 
久米の岩橋 (大字平石) 『大阪府全誌』より

本地は古来石川郡に属し、持尾村と同村たりしが、慶長13年分れて平石村と称す。
東南は葛城山にして大和との国境を爲し、南方篠峰・金剛山に連れり。山中は名蹟に富みて、古来著名なる久米の岩橋は山頂より僅に東する所にあり、長さ8尺、幅3尺許にして橋面は四段の板を構へたるが如く、その両端稍隆くして欄基の容をなし、形勢は将に南峰に及ばんとして其の南端に缺落を生じたるものの如し。
傳へいふ、むかし役小角葛城の峯より金御嶽に通はんが爲め、石橋を造らんと欲して之を諸神に命ぜしに、一言主神は容貌の醜を恥ぢ晝(昼)を憚り夜をのみ待ち給ひしより、橋は功を竣えずして小角の怒に触れ、爲に呪縛して深谷に監置せられ給へりと。
其の付近には奇石多く、同石橋の上方四五間にして石不動あり、橋下四町に鉾立石ありて高さ二丈許り橋西五町に鍋岩・釜岩あり、何れもその形に依れるの名にして、又胎内竇あり、巨岩の左右より合して中間空洞を爲し、頭を傾け身を縮めて僅に通行し得るを以て此の名あり。
尚外にも奇岩あり、且渓水の輳合して飛泉を爲せるものあり、字竹谷に落つるものの一を笙瀧といひ、一を琵琶瀧といふ。
前者は高さ八尺・後者は高さ二丈、里老の口碑にいふ、瀑聲一は吹笙の如く、一は琵琶を弾ずるが如し、故に此の名ありと。又字瀧の脇に落つるものを横尾瀧といふ、高さ一丈なり。
而して山は景勝の域にあるのみならず、其の名は古史に見え、且古詠あり。

     
[岩橋は山頂より僅に東する所にあり]  実際は、南西の位置にある 
                          

   

             
   岩 橋 (東から)
   

            
   西側部分は割れている
   
             葛城山細図 『河内名所図絵』


 
石 橋  ( いわはし )河内名所図絵』より 

当郡、石川郡平石村の上方にあり。平石より阪路を東にとる事十八町にして、葛城の山頂少し東の方にあり。
河内、大和の国境は、石橋より東五町計下りて、伏越峠を限る。しかはあれと、いにしへより和歌の名所に大和にあれば(大和名所図会)にも出せり。
此石橋の形を見れば、巨巌にして面に橋板の段ある事四ツ、両端、稍隆
(ややたか)うして欄檻に似たり。幅三尺余、長八尺許。西南の方、些(すこ)し欠たり。
形勢、将に南峰に逮(およば)んと欲す。実に、人力の到る所にあらす。伝云、むかし、役優婆塞、葛城の峰より金御嶽へ通ひ給はんとて、石橋をかけなんとす。これを諸々の神に命じ給ふ。葛城一言主神、容貌いと醜ければ、昼の役をはゞかりて、夜をまち給ひしより、橋をわたし得給はず、行者いかりて、一言主神を呪縛して、深谷に押籠置たまへり云云。
  さ月の頃石橋にのほりて
   いは橋によるばかり出る螢かな  湘夕
なを、此ほとりにか奇石多し。石不動は石橋の上五間許にあり。鉾立石は高サ弐丈はかり。其形をもって名とす。
石橋より山下四町にあり。鍋釜岩、弐ツとも形をもつて名とせり。これも石橋より西の方五町にあり。胎内潜は、巨巌、左右より頭を傾け、中間、虚にして、人これをくゞるに身を縮めて通る故に、名によぶ。
大峯にひとしく、其外、奇岩多し。地勢勝れて、南に金剛山の巓近く見へ、東は、大和の畝火山、三輪杜纒向の檜原、天香具山など、遥に見えわたり、西の方には、河内の国中、摂陽の村邑、難波江、珍努海、北には、浦の初嶌、芦屋里、鳴尾崎、灘の浦まで鮮にして、風色いちじるく、一国の勝景なるべし。

      
               
葛城岩橋図 『河内名所図絵』


            いこまかんなびの杜